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我が国における繊維産業政策の方向性
Policy Directions for Japan’s Textile and Apparel Industry
1.はじめに
世界では、米国の関税措置や、米中欧をはじめ各国による自国優先の大規模な産業政策の展開など、自由主義経済に代わる新たな国際秩序が生まれようとしている。国内に目を向けると、昨年は、賃上げや国内投資が約30年ぶりの高水準となり、名目GDPも初めて600兆円の大台を超えるなど、日本経済に明るい兆しが現れた。また、繊維産業においても、輸出が増加傾向にあること、一昨年を上回る賃上げ率となったこと、そして我が国から世界初となる技術開発への試みが開始されるなど、様々な変化がみられている。繊維業界は、原油・原材料費の高騰、適正な価格転嫁、人手不足、環境や人権などのサステナビリティへの対応、米国による関税措置による不確実性など、様々な課題に直面しているが、産学官の力を結集させて対応することで、中長期的な産業構造の変革につなげていくことが重要であるため、本稿では、そうした政策の方向性について紹介する。
2.繊維産業のサステナビリティへの対応
繊維産業におけるサステナビリティの取組は企業の競争力強化の観点からも重要な課題となっており、すでに欧州等の一部のアパレル企業においては、自社の人権や環境に配慮した取組を証明するため、第三者の認証機関が担保する国際認証の取得が進んでいる。今後、国際社会においてサステナビリティ確保に向けた法整備や対応等が進展する中、我が国の繊維企業がグローバルに産業競争力を維持・強化していくためには、企業による環境配慮や人権尊重に向けた取組が不可欠となっていく。このような動きを踏まえ、経済産業省では、令和6年に策定された「繊維製品における資源循環ロードマップ」に基づき、官民の連携を通じて様々な取組を推進してきた。例えば、国内繊維メーカーを中心とした連携による複合品の分離・リサイクル技術の研究開発・実証事業が、「バイオものづくり革命推進事業」に採択され、令和7年10月には繊維の資源循環の実現に向けたコンソーシアムが設立された。また、令和6年に策定した「繊維製品の環境配慮設計ガイドライン」の普及及びJIS、ISO化に向けた取組等による供面の整備や、公共調達による需要創出を図る観点からの、グリーン購入法の基準の見直しを進めている。併せて、欧州で検討が進むデジタルプロダクトパスポート制度も参考にしつつ、環境配慮設計や情報開示等を促進する観点から、情報流通プラットフォームの構築にも取り組んでおり、引き続き様々な政策を推進していく。
3.繊維産地におけるサプライチェーンの強靱化・外需の獲得
国内繊維産業のサプライチェーンは、従業員の高齢化・人手不足、取引先等の生産拠点が海外移転することの影響等により、毀損リスクが顕在化している。こうした状況を踏まえ、経済産業省では、令和6年10月より「繊維産地におけるサプライチェーン強靱化に向けた対応検討会」を設置し、事業継続や価値向上、多様な主体の連携を図るべく議論を進め、令和7年11月に報告書を公表した。報告書では、産地が抱える課題と目指すべき発展の方向性を整理するとともに、国、産地企業、組合、自治体、金融機関等の役割も明確化している。また、近年見受けられる新しい取組として、オープンファクトリー等を通じた関係人口の創出、国際認証の取得、デジタル化の推進、ブランディング強化に向けた共同投資なども取り上げており、こうした各主体による連携した取組を後押しし、国内の繊維産業における持続可能なサプライチェーンの実現を目指していく。
また、我が国の繊維産業が、外需を獲得していくことは、我が国の繊維産業にとって極めて重要な要素である一方で、現状では一部の事業者が個別の手法で海外に輸出している状況がある。このため、令和7年10月に「繊維産地から目指す次世代繊維企業の外需獲得に向けた研究会」を立ち上げた。今後は、日本の繊維産業の国際競争力、各産地や工程ごとの強みとなり得る分野について、海外展開に取り組んでいる企業や産地の中核企業、商社等と共に議論をしていく。
4.繊維産業における人材不足の解消
繊維産業においては、令和6年9月より追加要件を課した上で、一定の専門性・技能を有し即戦力となる特定技能1号外国人の受入れが可能となっている。経済産業省では、繊維産業に課された特定技能制度における追加要件のうち「国際的な人権基準に適合して事業を行うこと」への対応として、令和7年3月に、日本の繊維産業の監査要求事項・評価基準である「JASTI(Japanese Audit Standard for Textile Industry)」を策定し、同年4月から第三者監査制度として運用を開始した。また、令和9年度から技能実習制度に代わって開始される人手不足分野における人材の育成・確保を目的とする育成就労制度においても、特定技能制度で課されている追加要件が課される見込みとなっており、育成就労制度へ円滑に移行できるよう、業界と連携しつつ、準備を進めていく。
5.価格転嫁・取引適正化の徹底に強靱化・外需の獲得
我が国の繊維産業の持続的な成長や労働環境整備のためには、適正な取引、適正な利潤の確保は不可欠であるが、エネルギーや原材料価格の高騰等により製造コストは上昇しているにも関わらず、価格転嫁が十分に進んでいない繊維企業が存在し、一部では歩引きが残っている実態がある。そうした中、昨年の通常国会で改正した「中小受託取引適正化法(取適法)」・「受託中小企業振興法(振興法)」が本年1月1日に施行された。今回の改正により、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大され、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化される。これらを踏まえ、改訂されつつある「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」、「パートナーシップ構築宣言」等の実施徹底について業界と連携していく。
6.おわりに
繊維産業は、衣食住(ライフスタイル)を担う根幹の産業である。我が国の繊維産業は、これまで厳しい国際競争で培われてきた卓越した技術力、繊細な表現力により、私達の日々の暮らしの質をより良くし、生活文化の発展にさせることができる産業として期待されている。我が国の繊維産業が創造する素晴らしい価値を更に高め、次世代に引き継いでいくため、産業競争力の強化に向け、今後も政策を推進していく。
渡邉 宏和(経済産業省 製造産業局 生活製品課 課長)
*繊維学会誌2026年2月号、時評より
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