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繊維学会の未来をともに描くために
To Shape Together the Future of The Society of Fiber Science and Technology, Japan
新年あけましておめでとうございます。繊維学会会長として二度目の年始を迎えるにあたり、会員の皆さまの日頃からのご支援とご協力に、改めて深く御礼申し上げます。本稿は、前年12月初旬に国際会議で訪れたシンガポールにて執筆しています。会場となった南洋理工大学(NTU)の教育研究の「勢い」に触れながら、日本の学術・産業界の将来像、そして学会が果たすべき役割について思いを巡らせて筆を取った次第です。会長として自省も含めてこの一年を振り返りつつ、将来に向けた展望を述べさせていただきます。
まず、「繊維系三学会合併問題」についてご報告いたします。繊維学会、日本繊維機械学会、日本繊維製品消費科学会の三学会は、成り立ちや歩んできた歴史・文化こそ違えど「繊維を基軸に科学・技術・産業・暮らしをつなぐ」という根幹は共通しています。一昨年末に三学会合併協議会で取りまとめた第一次協議案をたたき台として、公聴会での率直なご意見、各支部での議論、若手メンバーからの提案、さらに総会でのご質問・ご懸念を受け止めながら、本学会理事会および他学会との協議を重ねてまいりました。単なる組織の統合ではなく、未来志向の新しい学術コミュニティを築き、会員の皆様にとって「心躍る集いの場」を創出し、「新時代の繊維学」を推進するための検討であり、時間を擁しつつも丁寧な議論を重ねてきたことにつき、ご理解を賜れれば幸いです。
また、学会のガバナンス向上の観点では、マニフェスト制会長選挙の導入も本年度の大きな取り組みでした。会員のみなさま一人ひとりが学会のあり方や将来像を主体的に考える契機となることを願っています。価値観や社会的使命を共有できるリーダーを選ぶ仕組みは、変化の時代を迎える学会にとって欠くことのできない基盤であると考えます。併せて申し上げたいのは、会長選挙は決して対立の場ではなく、多様な意見を尊重しつつ、民意としての結果をもとに一致団結して学会の発展を目指すプロセスです。その文化の醸成こそが、組織の活力と次代のリーダーシップを育むものと考えています。
将来について大きな希望を抱かせてもらえたのが、繊維系三学会の若手・中堅メンバーが協働で提案いただいた「学術の中長期研究戦略:循環としなやかさで人と社会のウェルビーイングを紡ぐサステナブル繊維イノベーション」です。従来の材料・紡糸・加工・製品という枠を大きく超え、循環型社会、デジタル技術、生体・医療、ウェルビーイングなど、広範な社会課題を視野に入れた提案が示されました。そこには、技術革新のみならず、地域・文化・産業を新しい関係性で結び直す視座があり、繊維科学が「繊維のための科学」から「社会と地球をつなぐインターフェース」へと変貌しつつあることを実感しました。このような構想の芽を大切に育て、国内外の研究助成制度や政策的枠組みに接続できるよう、学会としても取り組めればと考えています。合併の行方にかかわらず、多様な視点をもつ研究者・技術者が産官学から集い議論する場を設けることは、繊維分野の未来にとって大きな価値を持つものと確信します。
サステナビリティとウェルビーイングは、今やあらゆる分野において不可欠の視点であり、繊維分野においても例外ではありません。むしろ、日常生活に深く関わる領域であるがゆえに、社会的要請は一層強まっています。部分最適にとどまりがちな現状を打破するためには、多様なステークホルダーの参画、文理融合・異分野協働、人文社会科学との連携を含めた全体最適の視点が必須です。サステナブルファッションをはじめとする社会課題に挑む基盤として、繊維分野がコアとなり、複数のプラットフォームを創出していくことが望まれています。これらは個々の専門性を新たな視点で見直す機会ともなり、学術的にも社会的にも大きな相乗効果を生むものと確信します。残り半年の任期の中、こうした取り組みには積極的に協働してまいりたいと思っています。
最後に、滞在中のシンガポールに対する雑感を述べさせていただきます。人口600万弱の都市国家でありながら、国家戦略に基づく研究開発投資は極めて明快かつ迅速であり、大学、研究機関、スタートアップ、国際企業が一体となって新たな産業創出に取り組む姿勢を随所で感じます。もちろん課題もあるようです。特に、基礎基盤の強化という観点で諸手を上げて賛成という訳ではありませんが、その機動力や戦略性から学ぶべき点は多くあります。一方、日本の繊維分野は、長年にわたり培われた高度な素材科学、卓越したモノづくり力、豊かな消費者文化を強みとして有しています。しかしながら、人口減少、若手研究者の減少、狭義には繊維産業の縮退、大学組織の疲弊といった構造的課題を前に、従来の延長線上の取り組みだけでは十分ではありません。基礎研究力・開発力の一層の強化に加え、異分野を巻き込むプラットフォームの下で新たな挑戦が求められていますし、日本の繊維科学技術にはそのポテンシャルがあるものと確信しています。
繊維学会は、会員のみなさま一人ひとりの叡智と対話によって支えられている共同体です。次代を担う若手を含め、産業界や地域社会とも連携しながら、共に未来を描く一年としてまいりましょう。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
辻井 敬亘(京都大学 教授)
*繊維学会誌2026年1月号、時評より
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