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これからの「モノづくり」と「コトづくり」を考える
Rethinking the Future of “Manufacturing” and “Value Creation”
先の日本万国博覧会(大阪万博)から55年ぶりに大阪夢洲にて日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催されている。万国博覧会(万博)の開催は、世界中の知識や技術を集結させ、社会や経済の発展を促進することを目的にしており、Made in JAPANの最先端技術を世界に発信する重要な機会となっている。先の大阪万博においても、モノレールやワイヤレス電話、電気自動車などの日本の未来技術が登場し、世界をリードする「技術大国」としてのプレゼンスを示すと共に、その後の社会発展に大きな影響を与えた。
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会」であり、人々の生活を便利で持続可能なものにするSociety5.0の実現を目指した未来社会への構想が語られており、例えば、内閣府が推進する「ムーンショット型研究開発制度」に挙げられる、人々の生活を根本的に変え世界的な社会課題を解決しうる、大胆な発想に基づくテクノロジーが紹介されている。
繊維技術においても、未来社会におけるファッションやサステナブルな技術の発信を目的とし、これに関わる日本の繊維技術が登場している。例えば、従来よりも薄型・軽量で、曲面にも搭載しやすい次世代の太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)を搭載し、スマホなどを充電できるスタッフユニフォーム、特殊なメッシュ状の生地に種子を植え付けた光合成する服や透明に見える服などの近未来を想像させる次世代ファッションに加え、会期終了後のリサイクルまでを考慮した機能性素材が公式ユニフォームに採用されるなど、今後の循環型繊維産業の提案がなされている。ここで登場する繊維技術は、異なる立場や業種の人々や組織が垣根を越えて協力し合うことで具現化されたものであり、「モノづくり」や「コトづくり」に関する「共創」プロセスと、ここで生み出された繊維技術が万博という華やかな場で国内外から注目を集めていることに、繊維研究の未来を考えるひとりとして大変嬉しく思う。
かつて世界有数の繊維製品の生産国として、高品質な製品によって国際的な競争力を保持していた日本の繊維産業は、国内の繊維市場が成熟期に移行し、発展途上国の繊維産業の急成長もあって、価格競争にさらされた。さらに、第一次石油危機やプラザ合意などによる繊維製品の製造コストの上昇に加え、低価格でトレンドを取り入れたファストファッションの流行やコロナ禍によって、繊維産業のビジネスモデルが大きく変化した。これに伴う、生産拠点の海外移転による国内事業所・就業者数の減少や、特に技術継承の課題が今後さらに顕著化するのではと考えられ、サプライチェーンの断絶によりMade in JAPANの優れた繊維製品に加え、これに関わる洗練された繊維技術が失われるといった、待ったなしのリスクを含んでいる。
このような現状を踏まえ、経済産業省は繊維産業の未来を見据えた政策指針「繊維ビジョン」を策定し、サプライチェーン強靭化も含めた国内繊維産業の競争力に向けた取り組みを開始している。これは、繊維の主要な産地が日本全国に点在し、多くの地方の経済や雇用を支えている重要な産業であることを意味し、国内繊維産業の再興されるプロセスが、他の産業や日本の抱える構造的な課題解決に向けた好例になるからだと考える。
繊維産業の発展には、研究や理論構築を通じて持続的に産業を支え、新しい発展の道を示す学術研究を「経糸」に、学術の成果を実用化し、具体的な形にする繊維産業を「緯糸」として、学術の探求によって産業が進化し、産業のニーズが学術の方向性を形作る、まさに織物のように強く結びつきながら進化してきた歴史がある。すなわち、直近の国内繊維産業の再興においても、産学官の連携は必要不可欠であり、国内の繊維研究の「共創」や他分野との融合に関わるプラットフォームとなりうる我々国内繊維系学会の果たすべき役割はこれまで以上に重要性を増すと考える。
前述した通り産業界では万博も呼び水のひとつとなって、「共創」が加速されようとしている。学術界においても、繊維産業の全てを網羅し、他分野との融合を先導する国内研究体制の構築と、世界に誇る繊維研究の学術基盤の創出が重要となる。
現在、国内繊維系学会による3学会合併協議が進んでおり、この将来構想では、⽣み出される成果を持って、Made in JAPANの技術および製品の価値を実証し、国際的なプレゼンスを向上させることに加え、繊維産業を取り巻く環境を踏まえて、⽇本の繊維産業の国際競争⼒を維持・強化することが語られている。特に、国内繊維研究における異なる立場や分野の人々が垣根を越えて協力し合うことで生まれる繊維技術のさらなる広がり、さらには若⼿の交流によって、次世代を担う⼈材および⼈脈網の育成が、今後の持続可能で、競争力が強化された繊維研究基盤に繋がると感じる。
日本における万博開催が次はいつになるのかはわからないが、次の万博でもMade in JAPANの先端素材や繊維技術が世界の繊維技術をリードし、多くの人々を“ワクワク”させるものであることを期待しているし、人々の生活に寄り添い、その生活を豊かにすることができる繊維技術には大きな可能性があると考える。
増田 正人(東レ株式会社 繊維研究所 リサーチフェロー・研究主幹)
*繊維学会誌2025年7月号、時評より
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